#09 ロザル王国へ…

光と誕生の神「ラニ・アンシャル」を崇めるロザル教の国であり、東の大陸の民にとって不可侵の聖地。
ラニ・アンシャルの因子を宿して極稀に生まれてくるとされる、《神の子》と呼ばれる特殊なヒト族が《神王》として王位に就き、《神》の声を聞いて人々に伝えるという。
《神王》が在位中のロザル王国は「神国」とも呼ばれることがあり、《神》の代弁者ともいえる《神王》は東の大陸のすべての国・すべての民に対して強い発言力と強制力を持つ。
現在の《神王》はベル・リグ・ロザルという男性の《神の子》。

~ Character & Data ~

ラタル(外見25)

つかみどころのないニュートの青年。獣態は狐。
オドネル王国にある湖城《不可侵地区ルーク》を拠点とし、ニュートの《夢見》の力を利用して各国に厄災の予言や警告などを伝え歩く事から《サコ(不吉な報せ)》と呼ばれている。しかし《神王》ベル・リグ・ロザルの庇護を受けている彼の言葉を軽視することや、危害を加えることは誰にも出来ない。
ナツキとは旧知の仲で、幼少期のティラルとも面識があったが、ティラルは彼のことを覚えていない。
ロザル王国へと向かうティラルとナツキの前に突如として現れるが、彼の「目的」を果たすための手段は、あまりにも強引なものだった。

ロザリオ(15)

ティラルの双子の弟。
かつて母キシュルの胎内で死を迎えた際、《光の紋章》によって疑似的に生かされていたが、魂の半分は《紋章》に取り込まれたまま、肉体と魂が分離してしまう。4歳で兄のティラルと生き別れて以来、肉体の方は辛うじて生きているだけの人形のような状態となった。
魂の方はティラルの《光の紋章》の中に棲み着き、常にティラルの心身を守ろうと目を光らせている。
魂の方の彼は孔雀に《異物》と見做され、一時は《紋章》の奥深くに眠らされてしまうが、やがて様々な要因で術の力が徐々に弱まっていき―――

ベル・リグ・ロザル
(外見10)

ロザル王国の《神王》。
ラタルとロザリオを庇護している。
ディユと同じく《神の子》と呼ばれる特殊なヒト族で、現在《神王》の座に就いている彼の言葉は、東の大陸の全ての国に対してディユをもしのぐ強制力を持つ。

ライラ(15)

不可侵地区ルークに住む不思議な雰囲気の少女。

~ #09 ロザル王国へ… Story ~

Image Song of “MYTH” / Track10.月色の物語

 

これで彼女との契約も果たせる。
だから、これが終わったら……

ゼラー王国を発った馬車は、ただの護送というには大げさすぎる規模の隊列を組みながらロザル王国を目指して雪の悪路を進んでゆく。

エーリエル諸島を発ってから約1年。
サリエル歴848年《春の年》を目前にして、《神の子》ディユの指示通りパミエル王国とゼラー王国への一定期間の滞在を経た2人の《契約》は、ロザル王国で《神王》ベル・リグ・ロザルに謁見することで完遂されるはずだった。

しかし、ロザル王国の国境に差し掛かろうとしたその時、ティラルが異変に気が付くのとほぼ同時に馬車は大きくバランスを崩して横転し、天地が反転した。
次いで響く大勢の怒声と悲鳴、飛び交う魔法と金属のぶつかり合う音。
何者かによる強襲を受けて戦場と化した夜の森は、どちらが放ったともわからない炎に包まれた。
 

ティラルはナツキを馬車に残してひとり馬車の外に出ると、《神の子》ディユとの契約を反故にすることを覚悟して自らの意思で《光の紋章》の力を解き放つ。
その強力すぎる光魔法は、敵も味方もなく等しくすべての生体に襲い掛かると、それらを等しく無力化させた。

そして、倒れた襲撃者たちがゼラー王国の兵士だと気付いたティラルは、自身の目を疑った。
彼らの正体は、ティラルを「アマティスタ王女の体を禁呪で穢し、マグニティス女王を騙して懐柔させた邪教徒」として、ロザル王国に迎え入れることに反対したゼラー王国内で最も過激な思想を持つロザル教徒の一派だったのだ――
 

▲ティラルの光魔法は、周囲のすべての生体の感覚器官を侵食することで、誰一人殺さず、傷つけることもなく一帯を無力化した。

▲投げつけられたナイフからナツキを庇ったティラルは、突き刺さったナイフに仕込まれた術式によって左半身の自由を奪われた。

この瞳をよく見ろ。
お前は俺を覚えているはずだ。
……なあ、ティラル?

そう言って不敵に笑う半獣の青年「ラタル」は、ティラルの視線を自身の瞳へと導く。
「その瞳を見てはいけない」と本能が警鐘を鳴らすよりも早く、ティラルの視界は歪み、その意識は深く暗い闇の中へと沈んでいった――
 
周囲の安全を確認したラタルは、「あんたもティラルも、とっくに死んだものだと思っていたんだがな」と言いながら、ぴくりとも動かなくなったティラルを抱きしめるナツキを見やると、何かを悔いるような、どこか安心したような、複雑な笑みを見せるのだった。

……さあ、このあとどう動くのか
実に楽しみですね、ラタル?

ラタルはこうなることを予知していたかのような周到さでロザル王国に手を回す。
報告を受けた《神王》は【凶賊による襲撃を受けた2人を、偶然居合わせた「不可侵地区ルーク」の者が保護した。ティラル皇子は襲撃で受けたダメージの影響で意識が回復しないため、引き続きルークで治療を行う】という形で処理し、ディユの企てていた計画を阻止した。
 
ディユと同じく《神の子》であり、現在のロザル王国の王でもある《神王》ベル・リグ・ロザルは、ひとり愉しそうに嗤う。
《神王》の言葉が絶対となる東の大陸では、真実を共有したゼラー王国もパミエル王国も、《神の子》であるディユすらも、沈黙する他になかったのだ。
 
そしてティラルたちの身に起きた「異変」は、様々な形で今まで彼らと関わりを持った者たちにも伝わることとなる――
 

▲オリガに憑依していた《神》は、自身の次の依代となるはずだったティラルの気配が途絶えたことに気づき、既に限界を迎えつつあったオリガの肉体をより強引に現世に縛り付けるようになる。
 

▲東の大陸でティラルたちの後ろ盾となり、独自の計画を進めていた《神の子》ディユは、ゼラー王国の護送失敗の報せに眉をひそめると、険しい表情で思案した。

▲グラフィエル王国の国王サナトスからティラルの身に異変があったことを知らされたクロノスだが、今はただ彼の無事を祈るより他に出来ることがなかった。

春の年……
また、花の季節が来るのですね

――夜明け前。
《月》が静かな眠りにつく頃、銀紫色の髪の少女はふと天を仰ぐ。
その足元に広がる紫色の花のつぼみたちはほのかに甘い香りを放ちながら、やがて訪れるであろう朝の光を待ちわびていた。

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