#04 ラベド王国

マルクヴァルト地方の北部は枯れた土地が多く、少ない資源を巡って争いが頻発している。(実際は様々な国や勢力が混在しているが、地図の書き換えが間に合わないため、一括りにされている状態である。)
ラベド王国はその中でも無差別な侵略と略奪を繰り返す非常に気性の荒い王が治める国。戦争により住処を失った者の多くが難民や凶族と化すも、国王は王都とその近隣都市以外に見向きもせず戦争を続けた。
その結果、国に頼らない自治都市や独自の組織が多く誕生したため、マルクヴァルト地方の北部は更に混沌と化している。一部の都市を除いた全域の治安は非常に悪く、一般人がこの地方を通過するためには、腕利きの護衛を雇わなければ無事では済まないという。

~ Character & Data ~

クロノス・グラフィエル(14)

物語のもうひとりの主人公。よく喋りよく笑う快活な性格で、裏表もなく非常に面倒見がいい少年。グラフィエル王国の第一王子。
ヒト族の父とハーフエルフの母を持ち、エルフの血を1/4引く混血種で、使用する魔法によって髪と瞳の色が変化する。
14歳にして高位魔術師(アドラム)の階級を有し、年の離れた盲目の弟・サマエルの《守護者》を務めている。
ラベド王国領でナツキと別行動をとっていたティラルとパルスの前に現れ、窮地に陥ったティラルの命を救うために臨時の《守護者》の契約を交わす。彼を献身的に支え、メホド王国までの旅の手助けをすることを申し出るが、その真意は―――

宿の主人

瀕死のティラルが運び込まれた宿の主人。クロノスに差し出された金貨と彼の人柄に簡単に懐柔され、3人の滞在中は過剰なまでに世話を焼き、情報提供なども行った。

クネ王国の行商人

クネ王国の行商団のリーダー。メホド王国に向かう途中、凶賊によって護衛隊を失い立ち往生していた。クロノスを護衛として雇う代わりに、彼らにメホド王国までの移動手段などを提供した。

魔力

自身の体内で生成される「特殊なエネルギー」。元来ヒト族にはわずかな魔力を持つ者すら少なく、その極一部の者たちが千年近くの時をかけて交わりを繰り返し、血を濃くしていった。その結果、一部の権力者や優秀な血筋の者のみが魔法を使用できる社会が誕生し、魔力は権力の象徴となっている。

魔法

「体内で生成される魔力」と「大気中に漂う精霊」をエネルギー源として、属性を持つ熱量を具現化する技術。属性には生まれもった肉体との相性があり、魔力があるからといって全ての魔法を使用できるわけではない。

魔術師

自身の魔力を消費して魔法を使用できる者を指す。特に魔術師協会の階級章を持つ者は魔術師全体の中でも僅かで、一般的なヒト族からすれば雲の上の存在である。
西の大陸の魔術師は「魔術師協会」への登録が義務付けられている。階級は魔術師の権力に直結し、階級に応じて協会から与えられる支援・権利・情報が異なる。

《神話時代》後期に竜と契りを交わして竜族となり、《竜の紋章》を得たヒト族の娘が建てた「竜と竜族の国」。
今も国内には無数の竜が生息しているが、《ヒト時代》に激変した環境下では強い力を持つ竜は外界にその姿を留めておくことが難しくなり、そういった一部の竜は竜王が持つ《竜の紋章》の中に棲んでいる。
また、国民の大半はヒト族で構成されており、民衆は竜を神として崇め、竜族を神子として敬っている。
先代の竜王が崩御した際に他国からの侵略を受けるが、ファンザム帝国のオリガ皇帝がそれらを牽制して幼い竜王(ナツキ)を守ったため、エリム竜王国はオリガ個人に強い恩義を感じている。

ウェア・フェンリス・エリム
(20)

ナツキの異母妹。寡黙でまじめな性格。非常に高い能力を持ち、ナツキ不在のエリム竜王国の代理王を務めている。ナツキを心から慕い、彼女が竜王として国に帰還する日が来ることを待ちわびている。

《紋章》の負荷

《紋章》の宿主は強力な固有魔法を使用できるようになるが、対価として《紋章》を維持するために常に魔力を吸われ続ける。
しかし宿主が相応の魔力を持たない場合は、魔力の代わりに体力を、更には寿命をも消耗する。その負荷は、常人では数日と持たないほどのものと言われている。
そのため、高い魔力を持つ者が宿主の《守護者》となり、宿主が成長して相応の魔力を持つようになるまで常に付き添い、《紋章》に提供する魔力を肩代わりする必要がある。

《守護者》の契約

《守護者》とは、《紋章》や高すぎる魔力などの、制御が難しく、命の危険性がある要素を抱える未熟な個体に寄り添い、サポートする役割を担う者を指す。
その契約には互いの一定量の血液と魔力の交わりが必要となる。
ラベド王国で本来の《守護者》であるナツキの支えを失ったティラルは魔力の枯渇で衰弱するが、クロノスが臨時の《守護者》となり、《紋章》を維持する魔力をすべて肩代わりした。1人が同時に2人の《守護者》を持つのは極めてイレギュラーなケースである。

ナツキが帰国した理由

ナツキはティラルの《守護者》として常に彼に寄り添っているが、エリム竜王国という一国の王でもある。
国務は異母妹のウェアに一任しているが、竜が与える寵愛と祝福は《竜の紋章》を持つナツキを対象としている。そのため、ティラルと共に東の大陸へと向かい、二度と戻らないつもりで居るナツキがこれ以上《竜の紋章》を所持し続けることは、国の存亡にかかわる大問題だった。
ウェアはナツキに何とか竜王として国に戻るよう説得を試みるが、ナツキは首を縦に振ることはなく、完了まで約1年の期間を要する「《紋章》の移譲」が開始される。

クロノスの目的

ナツキと別行動をとることになったティラルとパルスの前に現れたクロノスの目的は、『MYTH』前編の時点では明かされないが、この接触が彼の独断ではないことは確かである。
また、少なくとも彼自身はティラルに対して敵意や悪意は抱いておらず、むしろティラルの行く末を案じてすらいた。
なお、オリガに憑依した《神》を信仰する国に属する者が、《神》が捕らえるように命じたティラルを助けて逆に逃がすという行為は、《神》に対する反逆行為ともいえる。

~ #04 ラベド王国 Story ~

Image Song of “MYTH” / Track07.《守護者》

 
サリエル歴846年《秋の年》。約1年半滞在したイニスの里を発ったティラル、ナツキ、パルスの3人は、目的地として定めた「東の大陸」へと続く最南端の国「メホド王国」を目指して、南下を始める。
その矢先、自身の治めるエリム竜王国からの要請を受けたナツキは、竜王としての責務を果たすため、単身での一時的な帰国を余儀なくされた。
 

私はあとから
必ず追いつくから、ね?
……約束、できるわね。

帝国を脱した4歳の時から初めてナツキと長期間離れることになったティラルは、ナツキに「立ち止まっては駄目」と言われ、強い不安を募らせながらもメホド王国での再会の約束をし、パルスと2人で旅を続けることになった。

しかし《守護者》のナツキと離れて数日後、ティラルの体に異変が起きる。彼に宿る《光の紋章》が、その存在の維持のためにティラルの魔力を食い尽くしてしまい、今度はその命までをも食らい始めたのだ。

その夜、ティラルは激しい痛みを訴えると、胸をおさえて倒れてしまう。
《月》の光を避けて街道から外れた林の中を進んでいたため周囲に人の気配はない。助けを求めることもできない状況で、パルスは精霊たちに呼びかけて懸命に彼を守ろうとするが、精霊たちは戸惑うようにざわめき始める。

パルスが振り返ると、そこには赤い瞳の少年がこちらを見て立っていた。

▲背後に突然現れた少年が持つ異質な魔力を警戒したパルスは、孔雀色の瞳を光らせて威嚇し、ティラルを隠すように抱きしめた。

《守護者》の契約を結ぶしかない。
このままじゃこいつ、死ぬぞ

「クロノス」と名乗る高位魔術師の少年は、一時は持ち直したものの夜が明けても目覚めないティラルを見ると、彼が「《紋章》に喰われている」ことを察する。
いまにも消えそうな命を救うため、クロノスは臨時でティラルと《守護者》の契約を交わして特別な「繋がり」を作ることで魔力を共有して、彼の代わりに《光の紋章》を維持することを提案すると、2人を近くの宿場町の宿に連れ込み、契約の儀式を執り行った。

パルスの協力もあって一命をとりとめたものの、光属性のティラルでは闇属性のクロノスから正常に魔力補助を受け続けることができないため、肉体の属性を強引に真逆の属性で上書きする必要があった。
施術の激痛に悶えるティラルが限界に達した時、孔雀によって深く眠らされていたはずの《異物》がほんの一瞬目を覚ます。
《異物》はクロノスを「ティラルの命を支える者」として認識すると、彼にティラルを託して再び眠りに落ちていった。
しかし、その一瞬を見逃さなかったクロノスは、その痕跡を捉えると、その後の道中でも孔雀の複雑な術式で封じられた《異物》への干渉をたびたび試みるようになるのだった。


命を繋ぎ止めるためとはいえ、緊急で交わした一方的な《守護者》の契約と属性の書き換えで体に大きな負担がかかったティラルは、回復までに数日の安静を要した。

ティラルの回復を待ちながらパルスからこれまでのいきさつを聞いたクロノスは、これも何かの縁だと言うと、メホド王国へと向かう2人の旅の手助けを申し出る。
衰弱したティラルに徒歩で旅を続けさせることは難しいと判断したクロノスは、すっかり懐柔した宿の主人から得た情報で、メホド王国へと向かう途中で凶賊によって護衛を失い立ち往生しているという行商団との接触を図った。

交渉の結果、クロノスが高位魔術師として行商団の護衛をする代わりに、3人は長い陸路を往く手段として、行商団の馬車を利用することとなった。
 

3人は幾度も凶賊を退けながら、行商団らと共に南下を進めた。
しかし立ち寄った先々で目にする光景や体験に、ティラルは自分にかけられた祖国からの追跡の手がいまだ緩んでいないことを思い知ることとなる。

▲馬車から異常な魔力の高まりを感知したクロノスは、パルスを庇うように覆いかぶさると「全員目を閉じて伏せろ!!」と叫んだ。

▲ティラルを襲った凶賊らは、闇夜を喰らい尽くすほどの「光」によって蒸発する。
彼はただ、焼け爛れた手のひらを呆然と見つめていた。

守られることを恥じるな。
大丈夫、お前は十分頑張ってるよ。

▲ナツキが居ない事に対して、自分でも理解できない程の異常な不安を感じて苦しむティラルに、クロノスは「それが正常だからお前は悪くない」「本来の《守護者》と長く離れて正気を保てているだけでも上出来だ」と、慣れた様子で言う。
そして毎晩、他愛のない話をしては、ティラルが落ち着いて眠りにつくまで寄り添った。
 

無事に向こうに
渡ってくれよ、ティラル

ナツキと別れてから約半月ほど経った頃、ティラルたちは行商団と共にようやくメホド王国の首都へとたどり着く。

分厚く高い城壁で護られた首都付近は、冬の年を前にして紛争や帝国の侵攻から逃れてきた避難民が大勢押しかけており、その門を通過するには高額な通行料と厳しい審査があるという。クロノスは行商団に対応を任せると、自分が付き合えるのはここまでだと言い、城壁の手前でティラルたちと別れることになった。

「また会えるといいね」と言うティラルの言葉に曖昧な返事をしたクロノスは、最後まで自分を信用することなく警戒し続けたパルスの視線に苦笑いしながら、2人と行商団に別れを告げると、城壁の中へと消えてゆく背中をひとり見送った。

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