#03 イニスの里

西の大陸を南北に寸断するマートル山脈の一角にある、巨大なカルデラに作られた有翼種族イニスの里。
その中央にそびえ立つ大樹には、結界を維持するイニスの王(ゼファー)と呼ばれるイニス「孔雀」が住む。
里の上空は孔雀が張った巨大な結界に覆われ、すべての生体の行き来を遮断している。
里に暮らすイニスたちの住処は様々で、樹に巣を作る者もいれば、岩場に穴を掘る者、土壁を使う者なども居る。
種によって定められている厳しい階級制度があり、身分の低い者には侵入できない区域が多い。

~ Character & Data ~

孔雀(ゼファー)(外見30)

イニスの里の長。《神》の域の魔力を持つとも言われる規格外の存在で、《神話時代》が終わり精霊が力を失うと、自らの魔力を使い山ひとつに結界を張ってイニスたちを匿い、現世に姿を維持できなくなった多くの命を救った。そのため、イニスたちからは信仰にも近い敬愛の意を込めて「イニスの王(ゼファー)」と呼ばれている。
旧知の仲の竜王(ナツキ)の要請に快く応じ、3人をイニスの里に客人として招き入れるが、ティラルの中に棲む《異物》の存在を感知すると、それを強く警戒した。
彼自身は声を「音」として発する能力を持っておらず、対象の脳に直接言葉を送り込むことで会話を成立させている。

ツグミ・カイム(外見15)

孔雀の妹。最低階級に属する雑種のイニス達を取りまとめる役目を担っており、彼女自身も雑種。
前向きで気さくで面倒見がよく、皆から「母」として慕われている。
自分の巣で暮らすことになった異種族のティラルに対しても他のイニスに対するのと同じように接し、巣で所在なくしているティラルに自力での生活が困難な雑種たちの世話をする仕事を与え、多くの生と死に触れさせた。
また、自身の翼の触り心地をパルスに気に入られ、まるで母親のように懐かれた。彼女自身もパルスのことを強く気にかけ、里の環境に馴染めず体調を崩した彼のことを懸命に介抱し続けたが……

ルリ・ライム(外見20)

自身に生じた《死の兆候》によりツグミの巣で療養生活を送っている女性で、ティラルに対して最初から非常に友好的に接した珍しいイニス。
元上級層に属していたため周囲から畏れられ、巣では若干浮いた存在ではあったが、人当たりは良かった。

イニスの子どもたち

タリムをリーダーとした、スジム、ニイム、フリムのいたずらっ子4人組。
始めの頃はティラルを「ハネナシ」と呼んで子分扱いしていたが、ある事件をきっかけに「仲間」としての対等な関係へと変わっていく。なお、子どもとは言っても既に数十年はゆうに生きている。

種族:イニス

《神話時代》の初期から存在する有翼種族で、頭部に一対、背中に二対の翼を持つ。
他の種族の比ではない程に魔力が高く、非常に長寿な種族。その命は肉体に宿らず、三対の翼に分散されているという。
《神》が眠りに就いて精霊が弱体化した《ヒト時代》の環境下では、外界でその存在を保つことすらできなくなり、現在すべてのイニスはゼファーと呼ばれる王の張る結界の中で生活している。

種族:竜族

《神話時代》後期に竜と契りを交わしたヒト族の娘(初代竜王)から生まれた種族。『MYTH』の世界においては最も歴史の浅いヒト型種。
体表の一部は硬い竜の鱗で覆われており、ヒト族と比べるとやや体格が良い。高い視力・身体能力・竜と交感する能力を持つ。他種族との交わりで血が薄まることはない。
王族は代々片親を竜とし、《初代竜王の記憶》をそのまま受け継いで生まれるため、竜はすべての竜王を初代竜王と同一人物として認識している。

イニスと竜の関係

《神話時代》の竜とイニスは空の覇権を争った仲だが、《神話時代》後期に起きた神族による天地を分けた抗争では共闘関係になった時期もあった。
また、初代竜王はイニスとの敵対をよしとせず、エリム竜王国で穏やかに暮らすことを望んだため、竜はそれに従った。
イニスたちもまた《結界》の中で暮らすようになり、現在は双方の交流自体が稀となっている。

イニスの里の結界

昼夜問わずオーロラのような姿で目視できる程の濃厚な魔力の幕。
里と外界の「すべてを遮断」する《結界》は、孔雀の魔力のみで維持されており、現状では孔雀に近い性質の魔力を持つ妹のツグミのみが通過できる。
イニスたちは結界の中でお互いの魔力を「疑似的な精霊」として放出し続けることで、里の精霊濃度を《神話時代》と同等に維持して生活している。

雑種

異階級同士のイニスから生まれたイニスは「雑種」と呼ばれ、通常のイニスと比べて非常に短命。能力や魔力も低く、体に何かしらの欠陥がある場合が多い。
「疑似精霊」として放出する余剰な魔力を持たない雑種は、里の寿命を縮める存在として疎まれており、階級を跨いで子を成すこと(=新たな雑種を生み出すこと)は禁忌とされているが、心の交わりで繁殖するイニスに制限を掛けることは難しい。
なお、孔雀の妹ツグミも雑種だが、彼女は《神話時代》に産まれた卵が遅れて孵化した個体である。

《命羽(ミコトノハネ)》

イニスの「命」は肉体には宿らず、三対の翼に分散されている。
実際に命が宿っているのは翼を形成する無数の羽の内のほんの数枚で、その特殊な羽のことを《命羽》と呼ぶ。どれが《命羽》なのかは誰にも分らないが、雑種はこの数が極端に少ないため、寿命が短い。
また、重罪を犯した者は罰として翼を切り落とされる。

《死の兆候》

イニスは寿命の10年ほど前になると、異常な量の羽が抜け落ちるようになり、やがて《命羽》を全て失うと命を落とす。
一時期はイニスの里特有の病だと考えられていたが、戦死が主な死因だったイニスにとって、これこそが正常な寿命の迎え方であることが判明する。
《死の兆候》が現れたイニスは最後の10年を同族に祝福されて見送られる。

~ #03 イニスの里 Story ~

Image Song of “MYTH” / Track06.孤高の王

 

パルスの道案内で無事にエルダ樹海を抜けたティラルたちは、イニスの里の長「孔雀」に庇護を求めた。
《神》にも等しい魔力を持つと言われる孔雀は、旧知の仲である竜王(ナツキ)の話に耳を傾けると、彼女の要請を快く受け入れる。

しかし、ティラルの中に蠢く《異物》の存在を感知した孔雀はそれを強く警戒し、彼らの滞在を認める条件として、イニスの里の安全のために《異物》をティラルの《光の紋章》の奥底へと深く眠らせてしまうのだった。
 

その《異物》には
重々気をつけなさい

▲孔雀の威嚇に反応して攻撃性をあらわにした《異物》と呼ばれたモノを、ナツキはティラルの体ごと押さえつけてなだめた。

▲《異物》がイニスの里で目覚めることのないようにティラルの《光の紋章》に封じこめることで、孔雀は里への彼の滞在を許した。

 

今日からこの巣で暮らすことに
なった外界の子たちだよ。
みんな仲良くな~!

結界の中の閉じた世界しか知らないイニスたちにとってこれ以上ない珍客である3人は、孔雀の妹「ツグミ」が取りまとめる《巣》で生活することになる。
そこに住まう「雑種」と呼ばれる者たちは、千年以上を生きるイニスの中では異端とされる短命種ばかりで、皆が生体として何かしらの欠陥を持ていった。

ティラルはここでの生活を通して多くの「生」と「死」に触れ、「命」について考える機会を与えられることとなる。

イニスの里でのナツキは竜王としての待遇を受けているため常にティラルの傍には居られず、パルスは里の環境がエルフの体と合わず寝込んでしまい、残されたティラルは巣でひとり所在なく過ごしていた。
ツグミはそんなティラルに「《死の兆候》を受けて養生しているイニスたちの世話」という仕事を与え、共に暮らす「家族」の一員として彼を迎え入れようとする。

しかしイニスの子どもたちはイニスにとって命にも等しい「翼」を持たずに生きているティラルを「ハネナシ」と呼んでめずらしい玩具のように扱い、イニスの大人たちは異質な存在のティラルを警戒して、距離を取ろうとした。

そんな中、元上級層の「ルリ」だけは、ティラルに対して最初から好意的だった。
ルリは雑種は臆病なだけなのだと言い、自らが率先してティラルに気を許すことで彼が危険な存在ではないと周囲の仲間たちに示した。

▲イニスの魂は翼の《命羽》に宿るのだと話すルリの背にある二対の翼は、《死の兆候》のため羽が抜け落ち、既にぼろぼろだった。

▲「ハネナシ」の自分にも好意的に接してくれる奇特なルリに、ティラルはナツキが居なくても安心して眠ってしまうほどに懐いていた。

ねえティラル、キミは自分が
死ぬ日のことを考えたことはある?

ルリはティラルに対して、イニスの里の成り立ちや仕組み、イニスという種族や《神話時代》の話、自らを蝕む《死の兆候》についてなど、様々なことを話し聞かせてくれた。
時折見せる暗い影に一抹の不安を覚えつつ、ティラルはルリが与えてくれる知識を素直に吸収しながら彼女たちの世話をして過ごした。
 
 
やがて徐々にイニスたちとも打ち解け始めた頃、ツグミの巣では「《死の兆候》を受けたイニスの不審な死」が相次ぐようになり、世話係のティラルが疑われてしまう。
さらに、犯人を突き止めようとしたイニスの子どもたちの無謀な行動が、死に怯えるイニスの怒りに触れてしまい、負傷者を出す事件が起きた。

イニスの子どもを庇ったティラルは重傷を負い、怒り狂ったナツキが《竜の紋章》を暴走させかける騒ぎとなり、孔雀直属の治安維持部隊が介入する大ごとへと発展してしまう。

そして、ティラルの体には、彼の治癒魔法でも癒せない大きな傷跡が残ることになってしまう。
ティラルは体に宿る《光の紋章》の意思による強引な自己治癒の負荷の大きさから高熱を出して数日寝込むが、その間もイニスの不審な死は続いたため、意図せず彼の潔白は証明されることとなった。
 

熱に浮かされたティラルは、夢の中で孔雀に《異物》と呼ばれていた存在の影と出会う。
彼が指し示す先に居た「真犯人」は、イニスたちの命にも等しい《命羽》を無心に毟り取る「ルリ」だった。

彼女がそんなことをするはずはないと飛び起きた直後、ツグミの巣にイニスたちの悲鳴が響く。

駆けつけると、そこにはツグミの《命羽》を奪おうと襲い掛かったルリの体が、ツグミの翼の中で休んでいたパルスの火魔法によって燃やされているという凄惨な光景が広がっていた。

本当はルリ自身が誰よりも臆病で、「死」を恐れていたのだと気付いた時には、すべてが手遅れだった。

▲自分に襲い掛かるルリと目が合ったツグミは、今まで仲間たちを殺していた者の正体を察すると、「どうして」と瞳を見開いたまま動けなくなってしまった。

▲ティラルは全身に大火傷を負って苦しむルリを《光の紋章》で癒そうとするが、既に手遅れと分かっていたナツキは「あなたがとどめを刺す必要はない」と制止した。

 

エルダ樹海の「精霊」の加護を失ったエルフのパルスは、イニスの魔力で生成された「疑似精霊」しか存在しないイニスの里では生きることができず、徐々に衰弱していっていた。
ツグミの献身的な看護で快方に向かっていたが、彼の命を繋いでいた最後の火の精霊は、死への恐怖で正気を失ったルリの凶行からツグミを守るために使い果たされた。
 

誰かの《命》を背負う覚悟が
あるのなら
この手を取りなさい

その恩に報いるため、ツグミは孔雀に掛け合いパルスの蘇生を懇願する。
ツグミの覚悟を受けた孔雀は、既に死亡したパルスの肉体に孔雀自身の2枚の《命羽》を与え、エルフとしてではなく、自らの《眷属》として、彼に2度目の生を与えるのだった。

    感想箱(イニスの里)