#07 パミエル王国

《神話時代》に「寒がりの水神」が棲んでいたとされるナルベルト海域に面した常夏の国で、冬でも暖かい。海賊団が興した国であり、陸よりも海に重きを置いているため、エーリエル諸島やメホド王国と親交が深い。エーリエル諸島を経由して西の大陸から流れてきたヒト族も多く住んでおり、様々な人種・文化・宗教が混ざりあい、やや混沌としている。
港や大通りは昼夜を問わず活気に満ちているが、中心部から外れるとスラム化している地区や海賊の縄張りなどもあり、常に警備隊が巡回しているが治安はあまり良いとは言えない。
隣国のゼラー王国とは先代までは敵対関係にあり、現在はユシエル小国家同盟の加盟国としては中立だが、水面下では冷戦状態に近い。

~ Character & Data ~

クウラ・ストラス・
パミエル(18)

パミエル王国の新米国王。物腰の柔らかい好青年で人当たりはいいが、マイペースで非常にゆるい。
即位する際に王の証として捺された《水の刻印》に肉体が蝕まれており、その影響を抑えるために薬で魔力を封じられている。その副作用で臥せることも多く、他者との接触や行動範囲も厳しく制限されているが、本人にはあまり気にしている様子がないため周囲が気が気ではない。
《神の子》であるディユの要請を受けて、ティラルとナツキを賓客として迎え入れ、国内での一切の自由を許可した。
水神信仰者のため、水神(=水竜)をも統べる竜王のナツキに対して強い関心を寄せ、一時的に深い親交を持った。

レイマス・エス・エレイス(46)

代々パミエル王国の宰相を務めるエレイス家の当主。先王カイルとは幼馴染。
《刻印》の影響で臥せりがちなクウラを助け、現在は国政の大半を担っている。養子のナイオスとは形だけの親子関係に留まっている。

ナイオス・G・エレイス(26)

クウラの友人であり、側近。「真面目」を体現したような人物。
西の大陸のグラフィエル王国出身だが、クウラの即位後にレイマスの養子となり、主に国内でのクウラの護衛と体調管理と教育係を担っている。

シャムシール・イザヤ(16)

パミエル王国の兵士見習いのノリの良い少年。剣の腕が立ち、イザヤ家に伝わる異国の剣術を得意とする。
素直なティラルを気に入り、本当の弟のようにかわいがる。自宅と寮とを数日ごとに行き来しているため、自分が留守の間はティラルを信用して妹のミーミルのことを任せていた。

ミーミル・イザヤ(14)

シャムシールの妹で、感情表現がまっすぐな少女。唯一の家族である兄を大切に思っているが、心配性故につい口うるさくなってしまう。
末っ子らしく甘え上手で、ティラルのことを兄のように慕う。とても行動的で、シャムシールが居ない時はどこに行くにもティラルを連れ回していた。

《刻印問題》

パミエル王国が抱えている問題《刻印問題》について。
西の大陸の国々では、王位継承権第一位の者が成人する際に《刻印》と呼ばれる強い属性加護を付与する魔力結晶を肉体に刻み込む決まりがあり、《刻印》は《王の証》とも呼ばれている。
水属性のパミエル王国の嫡子は代々《水の刻印》を捺されてきたが、クウラの母親はゼラー王国の王族だったため、炎属性の個体として生まれてしまったクウラの肉体が《水の刻印》に拒絶反応を起こし、一時は昏睡状態に陥るほどの事態になった。
ナイオスの時魔法と刻印術師らによる様々な施術で一命を取り留めたものの、一度捺された《刻印》を取り除くことは出来ないため、クウラ自身の炎属性の魔力の生成を抑制するしかなかった。
魔力を封じられたことでクウラの肉体は刻印依存の水属性に転じ、「自身で魔力を生成できない=周囲の属性の影響を強く受けてしまう」という体質になったため、水属性で安定している王都から離れる事が出来なくなってしまった。
また、クウラは自身の魔力を抑制するために毒に近い劇薬を毎日服用し続けており、国王が臥せりがちなパミエル王国は国政のほとんどを宰相に頼っている状態である。

《緋い月》

本来西の大陸のみに出現する《緋い月》は、古くから「邪神の眼」と呼ばれており、《緋い月》の夜は動物の異常行動や凶悪な犯罪、不吉な事象も多く、「忌み月」とされている。そのため、西の大陸の多くの子どもは「邪神の眼と目を合わせてはいけない」と教えられて育つ。
《神》がオリガの精神を侵食して憑依した夜の月も、この《緋い月》だった。

イザヤ家

ゼラー王国の元貴族の家系。魔力を持たないものの、十数代に渡って王族に仕え、重用されてきた。
しかし数年前、シャムシールとミーミルの兄が国内の派閥争いに巻き込まれる形で冤罪で処刑されたことをきっかけに、罪人扱いを受けた両親らも次々と命を落とし、イザヤ家は幼い2人を遺して没落した。
パミエル王国に亡命した2人を当時の国王カイルは自国の「平民」として受け入れ、現在2人は国の支援を受けながらのびのびと生活している。

パミエル王国でのティラル

西の大陸での成人は17歳だったが、この東の大陸では15歳で成人扱いになる。本来であれば成人として様々な権利と義務が発生するところだが、西の大陸出身で15歳になったばかりのティラルは、まずヒト族の社会に慣れ、ヒトとの関わり方を学ぶことを勧められた。
活動的なシャムシールやミーミルに振り回されるような形ではあったが、王都の様々な場所でヒトと関わり、様々な経験をすることで少しずつ自分の意見を持つようになり、表情にも変化がみられるようになっていった。
ティラルにとって、年相応のヒト族の少年として過ごしたパミエル王国での日々は、これまでの「常に命を狙われて怯え続けた日々」とは無縁の、平和でやさしい時間だった。

パミエル王国でのナツキ

パミエル王国が信仰する「水神」と深い関わりを持っていたナツキは、国王のクウラや宰相家の者たちからも非常に好意的に受け入れられた。
また、《刻印問題》のせいで魔力を持つ個体との接触が出来なかったクウラが、ナツキに対しては何の不調も起こさなかったこともあり、《刻印問題》の解決の糸口を探るための研究に協力することになったナツキは、パミエル王国での多くの時間を王城で過ごした。
日中はほとんどティラルと別行動をとるようになったが、日が沈むと必ずイザヤ家へと帰り、これまで通りティラルを護るように抱きしめて眠っていた。

~ #07 パミエル王国 Story ~

Image Song of “MYTH” / Track09.ロザリオ

 
サリエル歴847年《冬の年》。《神の子》ディユの指示で遣わされたパミエル王国からの迎えの船に乗り、彼らはついに東の大陸に上陸する。
2人の旅が始まった《夏の年》から約2年の時を経て、ティラルは15歳・ナツキは23歳になっていた。

東の大陸の玄関口でもあるパミエル王国は「寒がりの水神の加護を受けている」とも言われ、冬でもあたたかい気候の国だった。
アイシクル(氷人族)のライカは「こんなに暑い所に居られるか」と言いながら2人との協力関係を解消すると、互いの旅の無事と目的の成就を願いつつ、足早に北東へと旅立っていった。

やあ2人とも、
ようこそパミエル王国へ

2人はディユから預かった契約書を手に王城へと向かうと、パミエル王国の国王クウラは彼らを「異国からの亡命者」ではなく「《神の子》ディユ・リグ・ロザルの友人」として好意的な姿勢で迎え入れる。
そして王城への出入りの許可を与え、国内での行動にも一切の制限をかけることはなかった。

あまりにも拍子抜けな歓迎ぶりに唖然とする2人に、クウラは「私たちはこの国を好きになってほしいだけだよ」と爽やかに笑うのだった。

▲若い王の代わりに国政を担う宰相家のレイマスは、クウラの肉体が拒絶反応を起こさないナツキの存在に対して強い興味を抱いた。

▲国王クウラの側近ナイオスは、クウラの突拍子のない言動を厳しい言葉で諫めてはため息をつく。
2人は主従を無視した異様な光景に息をのむが、パミエル王国の王城ではこれが「日常」らしい。

港のマーケットで絡まれていたところをティラルに助けられた少女・ミーミルは、異国の来訪者である2人に興味を持ち、自身の家に招く。
パミエル王国での2人は、用意されていた賓客用の部屋での生活を辞退して、王城を訪れる前に縁があったシャムシールとミーミルという平民の兄妹の家に世話になることにするのだった。
 

俺たちの事は家族だと思って
楽にしてくれよな!

シャムシールはティラルを弟のようにかわいがり、ミーミルはティラルを兄のように慕ってよく懐いた。
辺境の集落エリアルを発ってから不安と緊張続きの旅をしてきたティラルは、初めて「安心して生活できる場所」に辿り着き、ヒト族との接し方やヒト族の社会について経験しながら学んでいくことになる。

そんなティラルの良い変化に気づいたナツキは、成長を促してくれた兄妹に感謝しつつ、彼らをそっと見守った。

一方、ナツキはクウラやナイオス、レイマスらとの意見交換の中で、パミエル王国が信仰する水神の正体が「神」ではなく竜王の自分が統べる竜のうちの「水竜」だという事実に行き当たる。
そしてパミエル王国が抱える《刻印問題》の解決の糸口を見出したレイマスの要請を受けたナツキは、王城に足繁く通うようになった。

これによって2人の日中の活動場所は分かれ、徐々にお互いがそばに居る時間は減っていった。
しかし、精霊濃度の濃い東の大陸ではティラルにかかる負荷も少なく、成長による彼自身の魔力の増加も相まって、以前のように倒れることは無かった。
 

やだっ、なにあれ!
月が赤く染まってる……!?

彼らが東の大陸で初めて迎える満月の夜に、その異変は起きた。
《星》の歴史が始まって以来、初めて東の大陸に《緋い月》が姿を現したのだ。
それはティラルにとって、オリガに《神》が降りた4歳の夜と、辺境の集落エリアルを旅立った13歳の夜以来、3度目の《緋い月》だった。

夜空を染める程の禍々しい光を放つ《緋い月》に街がざわめき始めるのとほぼ同時に、ベルティナ家の血を引く者と交感する「何か」がティラルに「何処だ」と問いかける。
月光を浴びていないにもかかわらず脳を侵食されていく痛みと恐怖に、ティラルはただ必死に耐えることしかできなかった。

▲ベルティナ家の血を引くティラルは《緋い月》の影響で心身に異常をきたして倒れてしまう。

▲ナツキの体温を感じて目覚めたティラルは、自分はいつまでこの腕に守られて生きていくのだろう……と考えながら再び瞼を閉じた。

▲「異物」が本来還るべき器であるロザリオの肉体は、魂を持たず、ただ生きるだけの人形と化していた。

▲「異物」と呼ばれたロザリオの魂は、夢の中に現れるとティラルを抱きしめて、「迎えに来て」とささやいた。

いつか手放さなければならないの。
この力も、繋がりも……
あの子との未来も

東の大陸に渡ってからのティラルが安定していたことに油断して、すっかり目を離してしまていったことを悔いたナツキは、ティラルが回復するまで片時も離れず付き添った。

しかし新月が近づきティラルが再び安定すると、ナツキは「しばらく家を留守にする」と告げるとシャムシールとミーミルにティラルを任せ、約10日間ほど彼らの前から姿を消した。
ナツキは祖国のエリム竜王国存続のため、竜王の証として自身に宿る《竜の紋章》を次期竜王に譲り渡そうとしていた。移譲は3回の段階を踏んで行われ、エリム竜王国に帰国した際に《紋章》の片翼を、このパミエル王国でもう片翼を。そして最後の1回で本体を手放した時点で、ナツキは竜王ではなくなり、竜の加護を失うことになる。

竜の加護を失った竜族に訪れる未来は――

    感想箱(パミエル王国)