#05 メホド王国

自治都市同盟から派生した「守り」の国。北部にはラベド王国と同じく荒野が広がっているが、その一帯を抜けると川沿いに比較的整備された街道があり、大小様々な街が点在する。
王都は高く分厚い城壁によって守られている。城壁には魔力を遮断する強力な魔法障壁が張られており、障壁が周囲の魔力を強制的に吸収するため、魔術師や魔力を持った者はおいそれと近づかないという。
また、昨今のファンザム帝国の動きへの警戒と、日々増加する難民問題も相まって、城門の通行制限が厳しくなっている。
陸側に対しては防御を固めているが、海側に対しては非常に開放的で、東の大陸のパミエル王国とは友好関係を築いている。

~ Character & Data ~

ライカ・E=S・デイン
(14~15)

デイン王国の国王の養女で、彼女自身はアイシクル(氷人族)。神秘的な風貌と近寄りがたい雰囲気をもっているが、親しくなれば年相応に様々な表情を見せる少女。
クルトルを従えて養父の病の治療方法を探す旅をしており、利害関係が一致したティラルとナツキと一時的に協力関係となった。
中級魔術師(ギルダ)の階級を有し、紋章学に精通しており、《光の紋章》の制御と維持をナツキに頼りきりだったティラルに対して、その効率的な扱い方や制御方法の基礎を教えた人物。
言葉はきついがバッサリと核心をついた正論を突き付けてくるため、今まで叱られる経験が少なかったティラルにとっては良い意味でかなり強い刺激になった。

クルトル(外見25)

ライカの護衛を務める従者。
非常に寡黙で冷静な長身の女性。
ライカの命令に従順で一切の感情を持たないのは、彼女が生体ではなく《ルーサー》という機械人形のためである。

種族(?):ルーサー

デイン王国の古代魔法《機械魔法》を施された、動く人形。魔力を動力源として作動する特殊な機械を使い、主となる生体と核をリンクさせることで活動が可能となっている。
ルーサーの元となる素体はヒト族の遺体のため倫理的に問題視されており、デイン王国以外では《機械魔法》自体が受け入れられていない。

種族:アイシクル

東の大陸の北部、極寒のジルヴァラ地方に生息する妖精族の一種。氷人族とも呼ばれるが、熱で溶けることはない。(※暑いのは苦手)
色白・紫銀髪であること以外、外見はヒト族と変わらないため、稀にヒト族の社会に紛れて生活している者もいる。体温が極端に低く、冷たい・寒いという感覚を持たない。
総じて高い魔力を有し、水や大気中の水分を氷にする能力を持つ。
 

メホド王国の城壁(魔法障壁)

《神話時代》にエルフの技術で造られたと言われている、外部からの魔法攻撃に対抗するための防衛機関。
城壁の近くでは魔法を使えず、城壁自体には周囲の魔力を吸収する特性がある。魔力を持たない者にとってはただの分厚く高い壁だが、魔力を持つ者にとっては魔力と共に生命力まで吸われかねない厄介な仕組みになっている。そのため、魔力を持つ者はメホド王国の王都には寄り付かず、東西の大陸を行き来することもまず無い。
クロノスはこの城壁を忌避し、ティラルとパルスに対しては障壁に吸わせる魔力の囮として「御守り」を持たせた上で、門を通過した後はすぐに壁から離れるようにと忠告した。

闇と終焉の神「パウ・ファンザム」を唯一神として崇めるグラフィエル教の国であり、聖地。現在は、湖の対岸にあるファンザム帝国の「《神》を降ろしたオリガ皇帝」を「生き神」とし、信仰対象として崇めている。
「魔力・精霊・紋章」など、西の大陸における魔術に関する全ての情報とそれを行使する魔術師を集約・管理する《魔術師協会》の本部を持つ。
また、放棄されたままのファンザム帝国の国務の一切を代行している。
国王のサナトスは各国からの信頼も厚く、現在は様々な要因から権力が一点に集中しているため、西の大陸北部の実質的な支配者のような存在になっている。

サナトス・レイフ・
グラフィエル(35)

クロノスとサマエルの父。グラフィエル王国の国王、グラフィエル教の法王、《魔術師協会》の最高責任者を兼ね、さらに現在は機能しなくなったファンザム帝国の国務も代行している。
ファンザム帝国のオリガとはアカデミー時代からの親友だった。
非常に厳格で気難しい人物。嫡男のクロノスを手駒のように扱うが、異常な執着を見せることもある。黒い噂も多々あるが、公の場でそれを口にできるような者は現在の西の大陸には居ない。

サマエル・グラフィエル(9)

クロノスの弟。兄と同じく1/4エルフの血を引いている。生まれつき盲目で、非常に臆病な性格の少年。生まれ持った高すぎる魔力を自身で制御できないため、クロノスと《守護者》の契約を結び、補助を受けている。

カイ・グラフィエル(14)

サナトスの弟の嫡男で、クロノスの従弟(生まれた日時は全く同じ)。
優秀な人物だが、常に従兄のクロノスと比較されて「2番目」として育ったため性格はねじ曲がっており、なにかにつけて彼を目の敵にしている。

宗教:グラフィエル教

「闇と終焉の神パウ・ファンザム」を「全てに等しく無慈悲な唯一神」として畏れ崇める一神教。聖地はアグナール地方のグラフィエル王国。
「ヒトは生まれた瞬間から《終焉》に向かって生きるもの」だと考えられており、安らかな終を迎えるための教えとされている。また、ヒトの命はそれぞれの個体の死で完結するものとし、「輪廻転生を否定する考え」を持つ。
死を「地に還る」と表現し、土葬することで故人の安息を祈る。
「安らかな終を」は、相手の生死を問わずグラフィエル教徒が他者に贈る最上級の祈りの言葉である。

《神》

オリガに憑依した《神》の正体は、グラフィエル王国の発表では彼らが唯一神として崇める「パウ・ファンザム」であるとされているが、実際のところは不明。
しかし、ファンザム帝国の帝都を生体が近づけない程の濃密な魔力で満たしたことから、この《神》を偽物だと考える者はいなかった。
現在、《神》は帝都から《月》の視界を介して星の様子を監視しているが、それ以外には具体的な動きを見せることがなく、《神》が一体何の目的でベルティナ家の血筋の者と交感し、その肉体に憑依したのかを知るヒト族はひとりも居ない。

~ #05 メホド王国 Story ~

城門をくぐったティラルとパルスは、行商団と解散すると、再会を約束したナツキの姿を探して街の中を歩き回った。
しかし、城壁全体に張られた魔法障壁に隔たれて、クロノスとの間で結ばれている《守護者》の契約の魔力補助を受けられなくなっていたティラルは、やがて再び魔力の枯渇で《光の紋章》に命を食われそうになる。
クロノスに渡されていた「御守り」のおかげで前回のような痛みこそ無かったが、猛烈な睡魔と倦怠感で動けなくなってしまうのだった。
 

はじめまして、パルス君

運び込まれた宿の一室で目を覚ましたティラルは、パルスの知るティラルではなく、自身を「ロザリオ」と名乗った。彼の正体は、《光の紋章》の中に棲みつきティラルと共に生きてきた双子の弟で、イニスの里で孔雀に《異物》として危険視されたため深く眠らされていた存在だった。
クロノスの魔力干渉で術式にほころびが生じたおかげで再び目覚めることができたのだと言う彼は、大切な兄の命の危機を察知して、《光の紋章》の悪食を抑止できない未熟なティラルに代わって表に出てきたことをパルスに伝える。

パルスは彼を危険視した孔雀の眷属ではあるが、ティラルの命を優先して「ロザリオ」を受け入れ、共にナツキを探すことにした。

▲ロザリオ」は広場で舞を披露する氷の踊り子に目を向けると、彼女の放つ珍しい魔力に興味を持ち、足を止めた。

▲その日の夜、踊り子は「ロザリオ」の寝込みを襲おうとするが、彼が眠っていない事に気が付くと、ある取引を持ち掛けた。

翌日、ティラルの回復を確認したロザリオは、パルスに別れを告げると再び眠りについた。
目覚めたティラルには、彼に肉体の主導権を譲っていた間の記憶はなく、ただぼんやりと夢を見ていたという。
パルスはティラルの体調を気にかけつつ、魔力の流れが歪んでいる区域と城壁に近づかないように気をつけながら、再びナツキの姿を探した。

 

おかえりなさいナツキ。
ぼくたち、立ち止まらなかったよ

再会を果たしたナツキに触れられた瞬間、《光の紋章》が淡く輝き、心と体に絡みついていた「何か」がふわりと解けていくような心地良い感覚が全身に広がっていくのが分かった。それがナツキという存在そのものによるものなのか、《守護者》との繋がりによるものなのかは分からなかったが、彼にとって今はそんなことはどうでもよかった。
ティラルは自然とこみあげてくる涙を抑えることも忘れて、ナツキの手に自分の手を重ねて、その感触が現実であることを確かめると、微笑んだ。
 
 
ナツキとの再会を確認したパルスは、その翌日「自分の役目は終わった」と言い、主である孔雀の待つイニスの里へと帰って行った。
 
パルスを見送ったティラルとナツキは再び2人旅を始めようとするが、エーリエル諸島に避難民が一斉に流れ込むことを防ぐため、王都の港は既に封鎖されていた。
踊り子のライカは改めて2人のもとを訪ね、通常の船とは作りが違う「魔力船」と呼ばれる船を入り江に隠していると言い、ティラルとナツキに「船に同乗させる代わりに動力として《光の紋章》の力を利用したい」という取引を持ち掛ける。
ナツキは危険だと言い反対するが、ティラルはナツキの言葉に従わず、挑戦してみたいという意思を伝えると、ライカたちと一時的な協力関係を結んだ。
 

……大丈夫、核には辿り着いた。
そのままゆっくり呼吸を続けろ

ライカは2人を魔力船の隠し場所へと招くが、すぐに船を動かすことはしなかった。
紋章学に精通しているライカはまず《光の紋章》との対話を試みるとその特性を解析し、ティラルに紋章の適切な扱い方を徹底的に叩き込んだ。

そうして無事に《光の紋章》を手懐けたティラルたちは、魔力船を起動することに成功し、エーリエル諸島を目指して出港する。

魔力船での航海は順調と思われたが、エーリエル諸島の本島を目前にして海賊の強襲に遭う。

▲海賊の強襲に応戦するためにライカはナツキと共に甲板へと向かい、ティラルとクルトルに舵を任せた。

▲ナツキの召喚したクジラのような水竜は、その巨体を海面に叩きつけると大波を起こして海賊の船を転覆させた。

ライカの氷魔法とナツキの召喚した竜で応戦してそれを退けることはできたものの、船体を大きく損傷してしまった。
 
航海を続けられない程に傷ついた船は数日の漂流ののちエーリエル本島の巡視船に発見・救助されるが、彼らはどこにも登録のない不審な船の乗組員として捕縛されてしまうのだった――

貴様はアレをどこにやったのだ

一方、西の大陸の北部に位置するグラフィエル王国では――
捕らえるように命じたはずのティラルの気配が西の大陸から消えたことを察知した《神》は、グラフィエル王国に帰還したクロノスの前に姿を現すと「アレ」はどこだと問い詰めながら彼の首を締めあげる。
しかし、オリガのかつての親友でもあるサナトスの制止の言葉を受けると、その動きを止め、興味を失ったかのようにクロノスを床に打ち捨てると帝都へと帰還していった。

触れられただけで全身が禍々しい魔力に侵食されてしまったクロノスは「こんな化け物がティラルの父親なのか」と、彼の背負わされたモノの重さを感じながら、意識を手放した。
クロノスの父親でもあるサナトスは、「よくやった」と満足げに言うと、その体を抱き上げて闇の中へと消えていくのだった。

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