#08 ゼラー王国

《太陽神》の加護を受ける炎属性の土地に、炎属性の魔力を持つヒト族が何十代にも渡って交わりを繰り返すことで力を得た魔術師の国。
東の大陸の中ではアトラス聖王国に次いで歴史が古く、その起源は《神話時代》にも遡る。女性が王権を持つ国で、国王は代々女性。
東の大陸でもっとも強大な国であるアトラス聖王国に対抗するために結成した「ユシエル小国家連合(ゼラー王国、パミエル王国、スケタリム王国、ウァバム王国などから成る、アトラス聖王国から独立したユシエル地方の国々の総称)」の中心国でもあり、加盟国のうち唯一アトラス聖王国と国境を接している。
ロザル王国とも隣接しており、国内には熱心なロザル教の信者が多い。

~ Character & Data ~

マグニティス・メル・
ゼラー(24)

ゼラー王国の女王で、ユシエル小国家連合の中心人物。歴代の女王の中で最も高い炎属性の魔力を持ち、自分にも他人にも非常に厳しい女性。パミエル王国の国王であるクウラとは異父姉弟。
《神の子》ディユの要請を受けてティラルとナツキを自国に招くが、周囲の動きを警戒したため王城に立ち入らせることはなく、半ば軟禁のような形で《水の離宮》に2人を匿って住まわせた。
自国の繁栄を第一に考えているため女王としての顔は冷徹そのものだが、国民からの信頼は厚い。
また、プライベートでは王配アイゼンとの仲も睦まじく、病弱な長女のアマティスタのことを溺愛している。

マーガレット・メル・
ゼラー(15)

マグニティスの妹で、王位継承権は第三位。クウラの異父妹。過去に負った心の傷から自身の「声」を封じ、ラル以外が近づくことを許さない。
姉と兄の治める国同士の、不安定な関係の行く末を危惧している。

ラル(エスメラルダ)・
レア(16)

代々宮廷魔術師として王族に仕えるレア家の嫡女。マーガレットの幼馴染で、現在は彼女の「声」を担う側近として、その生涯を彼女ひとりに捧げている。大陸最強の魔術師とも言われているが、本人は周囲の評価を気にしていない。

アマティスタ・メル・
ゼラー(13)

マグニティスの長女。王位継承権は第一位だが、生まれつき体が弱く、1日をほぼ寝たきりで過ごすことが多い、儚げな雰囲気の少女。
母のマグニティス女王に溺愛されているが、魔力を持たないため、一部からは彼女の王位継承について疑問の声も上がっている。
ティラルが持つ不思議な癒しの力と彼自身の優しく穏やかな人柄に惹かれ、やがて淡い恋心を抱くように。

マルフィール・メル・
ゼラー(8)

マグニティスの次女。王位継承権は第二位だが、強い水属性の魔力を持ち、生後間もなく水のコリエ(憑精霊)が憑いたため《水の離宮》に隔離された。母マグニティスに会ったことはほぼ無く、触れられたことは一度もない。
その境遇をものともしない明るく前向きな性格で、いつもコリエと離宮の中を駆け回っている。ティラルに対しては、年の近い友人のように親しみをもって接した。

《王位継承者問題》

ゼラー王国が抱えている問題《王位継承者問題》について。
ゼラー王国は、次期女王候補の選出で問題が発生している。現女王マグニティスは歴代国王のなかでも抜きんでた魔力を持っている。しかし彼女の娘たちにはその素質が受け継がれなかったため、ゼラー王国内は王位継承者を巡りいくつもの派閥がひしめき合う不安定な状態となっている。
候補には以下の3名の名が挙がっている。

■王位継承権第一位の第一王女アマティスタ(13)
 一切の魔力を持たない王女。体が弱く、日常生活もままならない状態。
■王位継承権第二位の第二王女マルフィール(8)
 炎の国ゼラー王国にあるまじき強い水属性を持つ王女。《水の離宮》に隔離されている。
■王位継承権第三位の王妹マーガレット(15)
 それなりの炎属性の魔力を持っているが、数年前の事件で人間不信となり、人前で声を発することがなくなり《太陽の離宮》に下がっている。

いずれも突出して次期「女王」にふさわしいとは言えず、マグニティスも明言を控えている状況。
そのため、水面下では誰を「象徴」として立てるべきかという意味で、複数の派閥によるにらみ合いが続いている。

病弱な姫

アマティスタはマグニティスが僅か11歳の時に産んだ子で、未熟児として生まれた彼女は特に免疫力と呼吸器官の発達に難があり、非常に病弱だった。
1日のほとんどをベッドの上で過ごしており、幼少期から体調を崩す度に幾度となく生死をさまよっていたため、ここまで無事に成長できたこと自体が奇跡だとまで言われている。
また、自身で魔力を生成できないのも、脆弱な肉体に負担を掛けまいとする生体の本能的なものではないかと言われている。

《水の離宮》

国土全体が濃い炎属性の精霊で満たされているゼラー王国の中で、何重もの分厚い魔力の膜に覆われて水属性を保つ特殊なエリアにある離宮。
水属性の魔力を持つ第二王女マルフィールと、彼女に憑く水属性のコリエ(憑精霊)が住んでいる。
水の離宮は魔力で気温や気候が調整されているため国内で最も快適に過ごせる場所であり、体の弱い第一王女アマティスタも夏や冬などはこの離宮で過ごす時期がある。

ゼラー王国でのティラル

この頃のティラルは他者と関わりを持つことに対して臆病ではなくなっていたため、《水の離宮》で暮らすアマティスタやマルフィールとも比較的早い段階で打ち解けていた。
特に体の弱いアマティスタのことをよく気にかけ、彼女が体調を崩した時は《腕輪》に感知されない程度の微弱な治癒魔法を使い、症状を和らげることもあった。マグニティス女王と協力してアマティスタの体を治療してからは、女王直々にアマティスタの体調管理や話し相手を任されるまでになる。
また、ティラル自身の成長に比例して彼が持つ魔力も高まっていき、《守護者》の補助を受けずとも自身の魔力で《紋章》を維持できるようになっていった。

ゼラー王国でのナツキ

《水の離宮》ではティラルの様子を見守り、彼女自身は同属性のマルフィールの話し相手をすることが多かった。
また、パミエル王国で既に2段階目の「《竜の紋章》の移譲」を終えていたため、徐々に竜の加護が弱まっていったナツキからは、以前のような覇気や力強さは随分と失われていた。
傍からは「穏やかな雰囲気の普通のヒト族の女性」と変わらないようにも見えたが、以前のナツキを知り、彼女にずっと守られてきたティラルにとっては「消えてしまいそうな弱々しさ」すら感じられた。
いつからか、ナツキは逆にティラルに抱きしめられて眠るようになっていた。

~ #08 ゼラー王国 Story ~

約半年間パミエル王国に滞在した2人は、《神の子》ディユと交わした契約内容に従う形でゼラー王国へと向かうこととなる。
その際、2人の存在を快く思っていないゼラー王国側の対応を警戒したパミエル王国の国王クウラは、本来国の外に出ることができない体質であるにもかかわらず、無理を押して2人に同行した。
土地全体が炎属性のゼラー王国の空気は彼にとっては猛毒となるため、ゼラー王国の女王マグニティスは、止むを得ず彼らを自らの娘たちが暮らす水属性の《水の離宮》へと迎え入れるのだった。
 

ゼラー王国は貴方がたの存在を
快く思ってなどいないのですから

ディユが作成した契約書にサインを取り交わした後、ティラルとナツキの身柄は正式にゼラー王国の管轄下に入り、半ば軟禁状態で様々な制限を受けながら残りの半年を《水の離宮》で生活することになる。
 

▲「この離宮はゼラー王国で一番安全な場所だから」と笑うクウラの半ば捨て身の同行に、ナツキはやれやれと肩をすくめた。

▲《水の離宮》での2人は、魔力の使用を制限する腕輪を着けられ、常に監視が付き、生活の一切をゼラー王国側に管理された。

この国にはこの国なりの
「事情」ってやつがあるんですよ

ある程度の制限は受けたものの、クウラのおかげでひとまずゼラー王国での安全を確保された2人は、王妹マーガレットの従者ラルから、国が抱える大きな「問題」について聞かされる。
歴代最強の魔力を持つと言われるマグニティス女王の後継者にふさわしい人物が、現在のゼラー王国には不在だったのだ。

体が弱く一切の魔力を持たない第一王女アマティスタ、生まれながらにして強い水属性の魔力を持ち炎魔法の素質を持たない第二王女マルフィール、過去の精神的なショックから心を閉ざし声を発することがなくなった王妹マーガレット。
現在のゼラー王国はこの3名を次期女王候補に立てた様々な派閥がにらみ合うという非常に不安定な状態で、そこに異国の危険因子とも言えるティラルとナツキ迎え入れる余裕など持ち合わせていなかったのだ。

ラルは、2人に対して《水の離宮》の安全性を説き、今はただ静かに過ごしてほしいと言う。そして「特定の王族に偏って親しくしてはいけない」と警告した。

状況を理解した2人は、《神の子》ディユから与えられたここでの「課題」が王位継承者問題に関連するものであることを察し、改めて気を引き締めて《水の離宮》での生活に臨むことになる。
 

▲体の弱いアマティスタは度々ティラルに助けられ、やがてティラルの穏やかな雰囲気に惹かれていった。
  

▲マルフィールはコリエ(憑精霊)が本来の主よりもティラルに懐くことに納得がいかない様子だった。


満月の夜、月光を避けて眠っていたティラルは離宮の使用人からアマティスタの容体が急変したという知らせを受ける。
彼が駆け付けると、そこには高熱にうなされ呼吸もままならない状態のアマティスタが、母のマグニティス女王と大勢の医師・神父らに囲まれて、帰天の時を迎えようとしていた。

ティラルは《神の子》ディユと「東の大陸では《紋章》を使わないこと」を約束していたが、苦しむアマティスタの命を救うために自らの意思で《光の紋章》の力を解放すると、決して踏み入ってはならない域の魔法に手を染めてしまうことになる。

……マグ・メル・ゼラー様、
どうかぼくに賭けてくれませんか

ティラルはマグニティスに《光の紋章》を使用した高位の治癒魔法による治療を提案する際に、「治療に必要な膨大な魔力を提供してほしいこと、成功する可能性が極めて低いこと、成功しても確実にアマティスタの寿命は削れてしまうこと」を告げる。
すると、彼女は悩んだ末に「一国の女王」ではなく、「ひとりの母」の個人的な願いとして、ティラルに自身の魔力と娘のすべてを託すのだった。
 

▲《紋章》の力を行使する際、ティラルはいつも自分を守ってくれている「何か」に祈るように助力を請う。すると「彼」はそれに応え、背後から支えるようにしてティラルをやさしく包み込んだ。
 

▲施術が終わり目覚めたアマティスタの目の前に居たのは、ティラルではなく、《紋章》の負荷から兄を守るために現れたロザリオだった。そして彼は、少女にとある「見返り」を求める――
 

ヒトの領域を超えた《光の紋章》の【奇跡】によって、まるで肉体そのものを作り替えられたかのように健康な体を手に入れたアマティスタは、次第にティラルと親しい仲になっていく。
愛娘の恩人であるティラルに対するマグニティス女王の態度も急激に軟化した結果、2人は腕輪を外され、監視もつかなくなり、《水の離宮》内での自由を得た。
 

ねえ、ナツキ……。
ぼくはあなたを守れるように
なりたいよ

再び訪れた平和な時間を利用して、ナツキは《竜の紋章》の最後の一片を手放すと、再びしばしの眠りにつく。
《竜の紋章》の移譲が進むにつれて少しずつ力を失っていくナツキの寝顔を見つめながら、ティラルは《守護者》である彼女との繋がりが薄れていくのを感じ、やがて来る「その時」を予感するのだった。

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