#06 エーリエル諸島

「西の大陸」と「東の大陸」を繋ぐ、大小数十の島々から成る諸島。本島にある大神殿が中心部となっているが、エーリエル諸島自体は国というわけではなく、様々な組織が混在している。海賊の根城となっている島も多い。
《神話時代》に《神》が最後にヒト族の前に姿を現した場所とされ、両大陸にとって共通する聖地であり、特に本島は《聖域》とされ、あらゆる争いごとが厳しく禁じられている。

~ Character & Data ~

ディユ・リグ・ロザル
(外見12)

常に笑顔を絶やさない「自称12歳」の元気な少女。
エーリエル諸島の本島でよろず屋として気ままな生活をしているが、本来の彼女は東の大陸のロザル王国の次期国王で、光と誕生の神「ラニ・アンシャル」の祝福を受けた《神の子》である。
特に東の大陸側に関しては恐ろしいほどの人脈と情報網を持っており、彼女が把握していない事はほぼないと言える。
ティラルたちに条件付きで東の大陸へ渡る手段を提供し、ティラルとナツキの後ろ盾となり、東の大陸での身の安全を保障した人物だが、その真意には計り知れないものがある。
《訳あり者》としての通り名は「イルダーナフ(よろず屋)」

シニカル(※通り名/外見10)

ディユと共に神殿図書館の地下で生活している年齢不詳の《訳あり者》の少年。他人をからかうのが大好きで、西の大陸北部やファンザム帝国の内情について不気味なほど詳しい。

オド族の吟遊詩人

イアー王国出身の、おおらかな雰囲気のオド族の女性。吟遊詩人として《神話時代》の伝承や星の歴史を歌にのせて語り聞かせながら、各地を旅しているらしい。

《神の子》

ハイムダール地方のヒト族から稀に生じる変異個体で、二次性徴を迎えるより前に肉体の成長が一度止まり、それから約50年間同じ1日を繰り返したのち、再び正常に時を刻むようになる。
《神の子》はロザル教の教えにおいて「神の因子を持って生まれた選ばれた者」とされており、成長が止まっている期間は《神王》としてロザル王国の王位に就き、《神》の代理人として人々を導くことが定められている。
現在は同時期に2名の《神の子》が存在するという稀有な状態になっているため、水面下では派閥争いが続いている。

《訳あり者》

エーリエル本島は、一部の者からは《訳あり者の島》とも言われている。不可侵の《聖域》であることを利用して、政治的な理由での亡命者や、事情により手放された貴族の庶子など、様々な「訳あり」な者たちが島民に紛れて生活している。(島を統括する大神殿で正式な手続きを踏んで許可さえ下りれば、島に根付く者として「通り名」で生活することが許されている。)
なお、「通り名」を持つ全ての者が《訳あり者》に該当するわけではない。
また、「通り名」を持つ者の過去や事情を詮索することは島の法によって禁じられている。

旅の吟遊詩人

楽器を相棒に自由気ままに旅をしては、行く先々で有名な伝承・各地の情勢・道中のほんの些細な出来事まで、様々な事柄を人々に詠い聞かせて生計を立てる旅人。
生まれた地から離れない者が多く、識字率も低いこの星では、貴重な情報屋のような役割も担う。単独で旅をするため、それなりに腕が立つとか立たないとか。

『月色の物語』

吟遊詩人が語る『月色の物語』は、《神話時代》に本当にあった史実を詩にしたものだという。
ヒト族は「砕け散ったひとりの神族の少女の欠片」から生じた種族で、少女を愛した2人の《神》は、少女の因子を持つヒト族を片や愛し、片や憎んだという。そのどちらかがパウ・ファンザムで、もう片方がラニ・アンシャルである。

《新年の儀》

エーリエル本島では、新年の最初の夜に、「新しい年を迎えられたことに対する感謝とヒト族の繁栄への祈り」を込めて、魔力を持つ特別なランタンを空高く飛ばして神に祈りをささげる。
それに釣られるかのようにして、星の至る所から精霊たちが集結し、非常に幻想的な光景を見ることができるという。

ナツキの冬眠(?)

ナツキの母竜・カナツイは寒さに弱く冬眠を要する竜で、その性質を強く受け継いだナツキも幼少期は冬眠をしていた。ティラルの《守護者》となり、旅を始める前までは完全な冬眠には入らないものの一日の半分以上を眠って過ごしていたため、ティラルは春が来るまで島に留まろうと提案するが、ナツキはそれをよしとしなかった。

《神の子》ディユとの契約

東の大陸で大きな権力を持つという《神の子》ディユが2人に持ちかけた契約で、ディユが提供したものは「東の大陸への安全な渡航手段」と「東の大陸の権力者に対して、《神の子》の名を後ろ盾として使う権利」だった。
それに対して、ディユがティラルとナツキに求めたのは「東の大陸では《紋章》を使わないこと」、「パミエル王国とゼラー王国で約半年ずつ生活すること」、「1年後にロザル王国の《神王》ベル・リグ・ロザルに1度だけ会うこと」。
そして、「パミエル王国とゼラー王国の王様が困っていたら、ちょっとだけ助けてあげてね♪」という、曖昧かつ強要するつもりも一切無いらしい「お願い」だけだった。
ディユの「お願い」を何かしら意図のある「課題」として受け取った2人は、東の大陸で過ごす2つの王国でそれぞれが見つけた「課題」と向き合い、関わっていくことになる。

東の大陸へ

シニカルの推測では、満月の夜以外であればオリガに憑依した《神》の力は東の大陸にまでは及ばないという。
しかし、様々な種族が混在するのが当たり前な西の大陸とは違い、東の大陸にはヒト族の社会しか存在しない。
ニュート狩りの前例もある東の大陸のヒト族が混血種と竜族の2人をどの様に扱うのかは全くの未知数だったため、東の大陸での2人は「ヒト族のふり」をして生きていくことになる。

~ #06 エーリエル諸島 Story ~

Image Song of “MYTH” / Track08.光の言祝ぎ

 

ほら、タダより高いものは
ないって言うでしょ?

港に停泊する船の中で尋問を受けるティラルたちの前に現れた「よろず屋(イルダーナフ)」と名乗る陽気な少女は、目配せひとつで周囲の大人たちを制し、彼らを解放させた。

少女は「訳あり者」が利用すると言われる宿に彼らを案内すると人払いをし、自らの正体を「東の大陸における2番目の権力者《神の子》ディユ・リグ・ロザル」であることを明かす。恐るべき人脈と情報網を持つ彼女は、初めて出会ったはずのティラルたち全員の情報を事細かくすべて把握していた。
下手な嘘や隠し事は無駄だと観念したナツキは、ディユに対してこれまでのいきさつを包み隠さず話す。ディユはそれを自身の持つ情報と相違ないか確認するようにひと通り聞き、満足したようにうなずくと、「東の大陸への足は用意するから、準備が整うまでこの街で自由に過ごしなよ」と軽い調子で言い放つ。
ファンザム帝国から追われている自分たちに対して何ひとつ追求も要求もしようとしない彼女を不思議そうに見るティラルに、ディユは人差し指を立てて「もちろん相応の見返りはもらうよ?」と悪戯っぽく笑った。

▲片親を竜とするナツキにとって、体温の下がる冬は冬眠していてもおかしくない時期だった。恨みがましく雪空を見上げては時折まぶたをこすり、睡魔と闘いながらもティラルの手を離そうとしない彼女に、さすがの彼も苦笑いを隠せなかった。
 

▲広場では、異国の吟遊詩人が《神話時代》の伝承を人々に詠い聞かせていた。

▲滞在中、ティラルは行く先々で不自然なまでの頻度で「よろず屋」としての仕事をこなすディユと遭遇した。

ベルティナ家の血を引く
混血種のキミは、この《星》で
いったい何を成せるのかな?

ディユに特別な閲覧許可をもらって神殿図書館へと通っていたティラルは、そこで「シニカル」と名乗る少年と出会う。
肩に不気味な精霊を乗せた少年は、ティラルを一目見ただけで彼がオリガの息子であることを見抜く。オリガとは旧知の仲だったという彼は、オリガが《神》に憑依された経緯や、現在のオリガやファンザム帝国のありのままの状況をティラルに教えた。

更にティラルのことを「この星で最も交わってはいけない者同士から生まれた《杯》」と称し、父・オリガと母・キシュルの一族がそれぞれ対となる双子の《神》の依り代の血筋であることと、この星の《神》にとってそれらの血を同時に受け継いで生まれたティラル自身がどういう存在であるかなど、到底受け入れがたい真実を、混乱するティラルの反応を愉しむように語り聞かせた。
 

あなたが誰であっても、
何を選ぼうとも
私はずっと味方だから、ね?

シニカルの話を聞いてから、ティラルは自身の在り方について改めて考えるようになる。
ナツキは思い悩むティラルにあえて助言することなく、彼自身が「どうしたい」のかという意思を尊重することを伝え、いつものように優しく寄り添った。
不安でグラグラと揺れていた足元が安定したことで心に余裕ができたティラルは、落ち着いた気持ちでこれまでの旅で出会った人たちと交わした言葉の数々を思い返しながらナツキと語り合った。

丸一日部屋から出てこない2人を心配して訪ねてきたライカは、事情を聴くと苦笑いしながらもティラルの話に最後まで耳を傾け、第三者の視点で相談に乗ってくれた。
彼女はまっすぐに「正解の道」を探そうとするティラルに対して、「歩むべき道が見えないのなら道以外を歩いても良い」「何ひとつ後悔しない選択なんて、どこにも存在しない」と諭す。
芯の通った彼女の言葉に、ティラルは世の中にはそういう在り方や考え方もあるのだということを知った。

▲自分の意思で「選ぶ」ことに慣れていないティラルの煮え切らない様子にしびれを切らせたライカは、厳しい言葉で彼を激励した。

▲宿の食堂で出会った女性は、いつも広場で詠っている吟遊詩人だった。この宿を利用する彼女もまた、「訳あり者」なのだろう。

見て、ティラルくん。
この光のひとつひとつに
ヒトの願いや祈りが
込められているのよ

この地の人々は新年の最初の新月の夜に、「新しい年を迎えられたことに対する感謝とヒト族の繁栄への祈り」を込めて、今も《神》が眠り続けるという空に向かって、特別なランタンを飛ばすのだという。

夜空を埋め尽くすほどの無数の人々の祈りに彼なりの「答え」を見出したティラルは、この星の《聖域》でもあるエーリエルの大神殿で洗礼を受け、洗礼名を授かる。それは、彼が「祖国のある西の大陸にも、これから渡る東の大陸にも属さない、中立の存在である」という宣言にも等しいものだった。

この地で彼に与えられた名は《オリ》。
「光の祝福」という意味を持つ、いにしえの聖人の名だった。

その数日後、ティラルたちはついに東の大陸へと旅立つこととなる。ヒト族のみで成る未知の大陸は、果たして《異種族》の彼らをどのように迎え入れるのだろうか。願わくば、そこに父・オリガが望んだ「安らかな終」となる場所があらんことを――

    感想箱(エーリエル諸島)