#00 ファンザム帝国

ベルティナ家の当主オレグが建てた国。
かつてのベルティナ家はケモル荒野の弱小家だったが、オレグが依代となり闇と終焉の神「パウ・ファンザム」をその身に降ろすことで、圧倒的な力をもって各国を次々と軍門に降し、僅か数年で西の大陸の勢力図を塗り替えた。
まだ3代目の非常に若い国ではあるが、パウ・ファンザムを崇拝する「グラフィエル教」を国教とする国々の強い支持を受けて、西の大陸北部を統べるようになった。
強硬派の先帝らと違い、穏健派のオリガの代になってからは国の在り方自体が穏やかなものに変わっていったが……

~ Character & Data ~

オリガ・エルド・ベルティナ

ベルティナ家の当主で、ファンザム帝国の三代目皇帝。ティラルとその双子の弟ロザリオの父。子煩悩で愛妻家の穏やかな人物として知られていた。
ティラルが4歳の時に、意図せず起きた《神降ろし》により自身に《神》が降り、御すことができず憑依されてしまう。
現在オリガの本来の自我は既に消滅しており、《神》としてグラフィエル教の崇拝対象となっている。

キシュル

百余年ほど前に東の大陸から移住してきたニュートの子孫で、獣態は白い狼。ティラルとロザリオの母、オリガの妻、ラタルの姉。好奇心旺盛で精神的にやや幼く、他人を疑うということを知らない無垢な女性。
《光の紋章》の所有者だったが、ティラルを出産した際に紋章はティラルへと受け継がれた。オリガに《神》が降りる直前に失踪して以来、彼女の姿を見た者はいないという。

種族:ニュート

「半獣」と「獣」の姿を使い分けて、群れや社会を作らず単独で広範囲に分布する妖精族の一種。半獣と獣のどちらがニュート本来の姿なのかはいまだに分かっていない。
特徴的な《瞳》が持つ魔力を使って他人の「夢」に干渉する能力を持つ。《夢見》と呼ばれる予知夢に近いものを見ることもできる。
珍しい外見や黒水晶のような美しい骨を持つことから東の大陸のヒト族から狩りの対象とされていた時代があり、西の大陸へと散り散りに移住したが、種としてはほぼ絶滅状態である。
また、ニュートは本人にも制御不能な強い《呪い》を持っていると言われており、その発動条件も不明のため過去にいくつものヒトや国を意図せず破滅へと導いたといわれる。
 

ベルティナ家

ベルティナ家は魔力を持たないヒト族の家系だったが、中には月光に反応して瞳の色が変化したり、満月の夜に「何か」の意思と交感する者が居た。そのため自らを「《神降ろし》の血を引く一族」と信じて、《神話時代》から細々とその血筋を守ってきた。
しかし、初代皇帝オレグが神を降ろしてからは、「《神降ろし》の血」を求めた各国の高い魔力を持つ血筋との交わりにより、ベルティナ家の血は急激な変質を遂げた。
結果、わずか数代で高い魔力を持つようになったベルティナ家の者は、月光から受ける心身への影響が異常に強くなった。それがオリガに「意図しない《神降ろし》」が起きた一因だとも言われている。
オリガの嫡子ティラルも例外ではなく、月光を極力浴びないようにして生活している。

~ #00 ファンザム帝国 Story ~

Image Song of “MYTH” / Track03.《緋い月》の侵蝕

サリエル歴836年《春の年》。三代目皇帝オリガ・エルド・ベルティナの仁政により、ファンザム帝国は建国以来最も安定した時期を迎えていた。

しかし、忌み月とされる《緋い月》の夜に、異変は起きた――
ベルティナ家の血筋の者は、《神》が眠るとされる《月》の意思の侵蝕を受けやすい。
特にオリガはその影響が強く、満月の夜は月光を浴びぬように地下にこもって過ごすのが通例だった。

だがその夜、最愛の皇妃キシュルの突然の失踪の報せを受けたオリガは、胸騒ぎと共に地上に出ると、あろうことか《緋い月》の下にその姿を晒してしまったのだ。

「キシュル……君はいったいどこに行ってしまったんだ」
オリガのその問いは、あてもなく虚空に向けられた。
そしてその視線の先にあった《緋い月》は、依代たるベルティナ家の当主の問いかけを捉えると、待ち構えていたかのようにオリガの心身を侵蝕し始める。
 
 

私にはこれを御すことはできない。
どうか、せめてこの子たちに
安らかな終を……

《神》に憑依されて肉体の自由を失ったオリガからは、ヒト族のものとは思えぬ禍々しい魔力が際限なく溢れ出し、一瞬にして帝都を呑み込んだ。
やがて《神》がオリガの実子であるティラルとロザリオを手にかけようとしたその時、彼は最後の力を振り絞って愛する我が子を信頼する2人の人物に託す。

オリガの自我は、彼らを見送りながら深い闇の中へと消えていくのだった。
 

▲双子の兄・ティラルは、エリム竜王国の竜王ナツキに託された。
オリガに恩のあるナツキは、「命を賭してこの子を守る」と約束した。

▲双子の弟・ロザリオは、皇妃キシュルの実の弟であるラタルに託された。
ラタルは「必ずお前の元に帰す」と言い、ロザリオを預かった。

お願い、だれか……
だれか助けて……!

死を拒もうとあがく幼い少年は、虚空に向かって小さな手を伸ばす。
しかしその手を握り返す者はなく、ただただ生暖かい血の海がその身を染め上げていくばかりだった。
――やがて、彼の視界には《闇》が訪れた。

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